入社式で思い切って声をかけようと思ったが、

薫子は緊張して全くと言っていいほど、

こちらを見る事もない。

俺は、挨拶の最中もずっと彼女に目がいっていた。

…少しでも薫子の近くに行きたい。


日に日にその思いが募っていった。

…だが、今までとはかってが違う・・・

彼女は自分の会社の一社員で、身分が違い過ぎた。

話しかける事など無理に等しい。

それでも何とか薫子と話がしたくて、受付に足を向けた。

それなのに。

薫子は俺の事など、全然覚えていなかった。

階段の出来事を言って初めて俺と会った事を思いだした。

俺はこんなにも、薫子の事を想っているのに。


それがなんだか腹が立った。

お門違いもいい所なのはわかってはいる。

あの出来事もほんの一瞬の出来事にしか過ぎない。

そうは思っても、つい、彼女に腹が立ち、言ってしまった。


「星野さんは嘘つきなんですね」・・・と。


もちろん後で、自己嫌悪に陥ったのだが。

今でも忘れられない。

彼女の困惑した顔を・・・


悶々としながら仕事をしていると、

石坂が俺に声をかけた。

いつもと明らかに違う俺が心配だと言って。

石坂になら言ってもいいか。

そう思い、俺は今の気持ちを打ち明けた。