「もう、お喋りなんだから、お兄ちゃん」

薫子はプッと口を膨らませている。


「私は喜ばしい事だから、いいんですけどね?

パパが、怒ってるの…だから、覚悟しておいてね」

そう言って困ったように笑ったマリア。

…覚悟しておいたとは言え、怒りは相当のような物らしい。


「…飛鳥さん、大丈夫ですか?」

俺を見上げる薫子の顔は、少し怯えている。

きっと怒ったら、半端じゃないんだろうな、そんな顔つきだった。


「・・・大丈夫だ、薫子は俺の隣にいてくれればいい」

そう言って微笑んで見せた。


・・・そしていよいよ、応接間へ通された。


窓越しに佇んでいる、星野会長。

その背中は明らかに怒っている。



「初めまして…いえ、お仕事では何度かお会いしていますが。

今日は、社長としてではなく、西条飛鳥としてここに来ました」

そう言って深々と頭を下げた。


「・・・よく来たな。

・・・で、挨拶の前に、勝手に籍を入れたと言う事らしいが、

その理由が聞きたい。私らの了承もなしに勝手に籍を入れた

その理由が・・・」

そう言った星野会長のこめかみが、ピクピクと動いている。

…怒りを堪えている。