薫子の弁当を堪能し、時計に目をやると、

取引先に向かう時間が迫っていた。

俺は、鞄に書類を入れ、石坂の元に向かった。


「お車の用意は出来ています」

石坂の言葉に頷いた俺は、先に前を歩き出し、玄関へと向かう。

玄関ロビーに下り立った俺は、前に進むことを忘れたかのように、

その場に立ち尽くした。


「社長、いかがなさいましたか?」

心配な声色で、石坂が尋ねる。・・・が、石坂も、

俺が足を止めた理由を知った。

俺と石坂の目線の先には、来客用の、ロビーに設置されたソファーで、

薫子と、イケメンの男が、仲良く話し込んでいる。

・・・あんなに、嬉しそうに話す薫子を見たのは、

初めてかもしれない。

そう思うと、男に対して、苛立ちを覚えた。


「…社長、先方には、少し遅れると言っておきますので、

ご存分に、お話ししてきてくださって結構ですよ」

そう言って微笑んだ石坂。

…俺の苛立ちが、石坂に伝わったようだ。

・・・流石は何年も俺の下で働いてるヤツだ、と、少し感心しながら。


「…悪いな、手短に、済ませてくるから」

「はい…僕は、車の方でお待ちしております」

「ああ」

俺は、やっとの思いで、薫子たちの方へと足を進めた。