【飛鳥side】

薫子が出ていき、石坂と二人になった。

薫子がいる前で、子供みたいな態度がとれるわけもなく、

第一、オレはいい歳した大人なわけで、ダメだなんて、

絶対に言えなかった。


「…社長」
向かい合わせに座っていた石坂が、申し訳なさそうに、

俺を呼んだ。

「なんだ?」

冷静に、普通の顔をして答える。


「いつもあんまり美味しそうだったんでつい、

あんな事を言ってすみませんでした」


「…いや、いい。本当に薫子の料理は美味しいからな。

・・・たまにはいいんじゃないか?」

本当は嫌だが、そう答えた。

すると、石坂は、満面の笑みを見せ、


「…良かったです…次からは、ちゃんと断りますから」

そう言った。


…全く、遠慮のない男だな、そう思う自分がいるが、

そこは心の中だけにしておく。


「お待たせしました」

お茶を二つ淹れて、薫子が姿を現した。

・・・思わず俺は思ってしまった。

・・・薫子が、毎日こうやって傍にいてくれたら、

…秘書はやってくれないだろうか、と。