・・・うそ。


突然私の目の前に現れたのは、他の誰でもない、

西条飛鳥、その人だった。


驚き、ポカンと口を開けてる私を見て、東吾はクスッと笑った。


「意地を張るのは、これで終わり」

そう言って東吾は私の肩を軽く叩くと、

飛鳥さんに何かを耳打ちして、その場を去っていった。


「・・・何も言わず、会社を辞め、

・・・訳も言わず、俺との別れを勝手に決め、

…家の事情すらも言わなかった薫子の事を、

この俺がどれだけ怒っているのか、分かっているのか?」


「・・・」

今まで見た事無い、冷たい眼差し。

…飛鳥さんは相当怒っている様子で、私の方に、一歩、また一歩。

近づいてくる。

…私は、なんだか怖くて、一歩、また一歩、飛鳥さんから後退していく。


「とまれ、薫子」

「・・・あす・・か、さん」

ビクッとなって、その場から一歩も動けなくなった。


「家の事はすべて聞いた」

「・・・」

「俺が、そんな事で薫子の事を捨てると思ったのか?」

「そんな事、そんな事、思ってません」