「水野、薫子は、私が」

飛鳥さんの言葉を、水野さんはぴしゃりと否定した。


「いいえ、結構です。華蓮さんとお食事を・・・」

そう言った水野さんは、私を連れ、喫茶店を出た。

・・・その頃の私は、もう何も考えられなかった。

…飛鳥さんの事も。

…私を支えている、私が嫌いな水野さんの事も。


私を後部座席に乗せた水野さんは、ゆっくりと

ドアを閉めた。


「車までは連れてきてくださって、ありがとうございました」

龍之介は礼を言って、運転席に乗り込んだ。


「お気をつけてお帰り下さい」

水野さんは、お母様にそう言って頭を下げた。


「…ありがとう」

「とんでもありません」


「…水野さん」

「・・・はい?」


「今日の出来事も・・・シナリオ通り、なのかしら?」

真顔で問いかけるお母様。


「・・・まさか、そんなわけないじゃないですか?

西条社長がここに来ることすら知りませんでしたよ」


「・・・そうですか。それでは失礼します」

しばらく水野さんの顔を見つめていたお母様だったが、

そう言って、助手席に乗り込んだ。


その後、私はどうやって自分の部屋に入ったのか。

どうやって着替えて、どうやってベッドの中に入ったのか、

何にも覚えていなかった。

…今はただ、何も考えたくない。