「お願いしていい?」


「ん、んー。まぁ切れなくもないけど」


「お願いします。瀬名君に切ってもらいたい」


複雑そうな顔をしていた瀬名君だったけど、しばらくして意を決したようにハッと息を吐いた。


「…わかった」


そう言うと瀬名君は、また霧吹きを出して、今度は私の髪全体を濡らし始めた。


クシでとかすと、胸の下まで髪が伸びていた。


「いい?いくよ」


「うん」


私はゴクッと息を飲んで、覚悟を決めた。


次の瞬間。


ザクッと髪が切れる音がして、パサッと髪がケープの上に落ちた。


それが何度も繰り返される。


その音はまるで、蒼甫君との思い出を切り落とすみたいだった。


しばらく怖くて目を閉じていたけれど、髪が軽くなるのを感じて、ゆっくり目を開けた。


瀬名君が真剣な目で、私の髪にハサミを入れる。


今までに見たこともないような瀬名君の姿に、私は少し見とれてしまった。


瀬名君の白くて長い指。


その手つきがすごく優雅で、綺麗で。


何かの映像を見ているような気分になった。


あっと言う間に髪は切られ、気がつけばドライヤーが当てられていた。


ブローが終わると、瀬名君が仕上げに入る。


瀬名君が縦にハサミを入れると、さっきまでやぼったかった髪型が、一気に洗練されていった。


「はい、完成。どう?」


「す、すごい」


「ホント?」


「私じゃないみたい」


私じゃないみたいだし、すごくかっこいいスタイルだと思う。