「私、出来ないから。

そんなの。

絶対イヤだから。

誰に、なんて言われてもいい。

私は蒼甫君と別れたりしない」


私はお財布からお金を出すと、テーブルの上に置いた。


そして、お店を飛び出した。


人ゴミの中を必死で走る。


震える手でお金を入れ、切符を買う。


自動改札機に切符を通し、そしてまた走り出す。


いや。


絶対いや。


たとえ、別れるフリだったとしても。


そんなのいや。


別れている間に、蒼甫君が他の人を好きになってしまったら?


私のこと、忘れてしまったら?


たとえば2年後、あれはウソだったって言って、蒼甫君が許してくれるはずがない。


電車がホームに入ってくる。


その突風で、私の涙が一粒飛んで行った。


「蒼甫君…」


私はこの時、無性に蒼甫君に会いたくなっていた。