蒼甫君が両脚を広げて、非常階段に座る。


私は踊り場に立ち、瀬名君は私の向かいに立った。


「なぁ、瀬名。お前、仕事どうするんだ?」


「え…?」


「騙されてるかもしれないのに、続けるのか?」


蒼甫君の言葉に、瀬名君がギリっと奥歯を噛んだような気がした。


「う…ん。俺さ、仕事自体は随分慣れた気がするんだよな。

高校卒業しても、大学へ行きながらこの仕事を続けていくつもりだった。

でも…」


瀬名君がゆっくり息を吐く。


「妊娠の話が嘘なら、モデルなんてやる意味はない」


そうだよね。


瀬名君はあの呪いのような二文字に、ずっと縛り付けられていたんだもの。


罪を償う。


罪滅ぼし。


そんな言葉を口にしていた瀬名君を思い出す。


「なぁ、瀬名」


蒼甫君が立ち上がる。


「お前、モデルの仕事辞めろ」


蒼甫君の言葉が、私と瀬名君の動きを封じ込める。


「え…、なんだよ、急に」


ぎこちなく言葉を発した瀬名君の前に、蒼甫君が立った。


「もう、そんなものに縛られなくていい」


「え…?」


「お前は、お前のやりたいことをやればいいんだ」


私からは蒼甫君の後ろ姿しか見えなくて。


その広い綺麗な背中の向こうで発せられる言葉に、私はひどく心惹かれていた。





「自由になれ」