瀬名君の家の前にタクシーが到着すると、私はお金を支払い、瀬名君と一緒にタクシーから降りた。


「瀬名君、家に着いたよ」


瀬名君は、とぼとぼと家の玄関の前へと歩き出す。


瀬名君の家の美容院の店舗から、灯かりがうっすらと漏れている。


店舗横のドアの前に来ると、瀬名君はその足を止めた。


「瀬名君…?」


家の中に入ろうとしない瀬名君。


私はその後ろ姿をじっと見守っていた。


「優月…」


扉に身体を向けたまま、瀬名君が私の名前を呼ぶ。


何か声をかけた方がいいと思うのに、何て言っていいかわからない。


戸惑って立ち尽くしていると、瀬名君が突然振り返った。


その表情は、いつになく悲しみに満ちていて。


黒い瞳がゆらゆら揺れて、私の心まで揺れてしまいそうになる。


次の瞬間、カツンと靴の音がしたかと思ったら。





私は瀬名君に抱きしめられていた。