「もう帰りなさいっ。二度とここへは来ないで」


事務所の扉が勢いよく開いたかと思ったら、中から大きな声が聞こえて来た。


「待って!話を聞いてっ」


そう言って、中から押されるように出て来る女性。


再び中に入ろうとするけれど、ガチャンと冷たく扉が閉められてしまう。


しばらく立ち尽くしていた女性だったけど、そのうちその場にへなへなと座り込んでしまった。


私と瀬名君は顔を見合わせると、慌ててその女性のところへ駆けつけた。


「大丈夫ですか?」


心配で、思わず声をかけた。


「あの、どうしたんですか?さっきの声、樋口さんみたいだったけど」


瀬名君の声で、その女性がパッと顔を上げた。


「す、すみません。見苦しいところをお見せして」


そう言ってスッと立ち上がる女性。


私より年上なのだろうか?


少し小柄なその女性は、メイクっ気などは全くなく、Tシャツにジーンズ、スニーカーと、とても素朴な格好をしている。


「事務所に何か用ですか?」


瀬名君が問いかける。


「あの、私…樋口葵(ひぐち あおい)と言います。

樋口薫の妹です」


「えっ?」


「薫さんの妹さん?」


うそ…。


び、びっくり……。