「樋口さん、不倫してる」


うそ…。


まさか、そんな…。


「だから、昼間にこんなところに来てんだよ。

普通の恋人なら、自分の自宅で夜に会えばいいだろう?

秘密の関係なんだよ、多分」


びっくりだよ…。


大人の世界過ぎて、頭が追い付かない。


「とりあえず、ここから離れよう」


「うん」


私達は急ぎ足で、駅へと向かった。


「なぁ、竹内優月。

あの人の、あの冷たい目ってさ。

手に入れられないものに対する、嫉妬みたいなものなのかな…」


「えっ?」


「不倫ってことは、相手には奥さんがいる。

自分のものにならないだろ?

それで、あんな冷たい目なのかもしれない」


確かに、そうかもしれない。


あの日、エレベーターの中から見えたあの目は…。


明らかに嫉妬の目だった。


「あんなに綺麗な人なのに、どうして不倫なんてするんだろう」


「さぁな。
そういう人しか好きになれない人も、世の中にはいるみたいだしな」


そういうものなのかな…。


「とりあえず、このことは裕樹には黙ってような」


「え…?」


「別れた相手が不倫してるなんて、あんまり聞きたくない話だと思うし」


「そうだね…。絶対言わないよ」


なんだか、ますます薫さんがわからなくなっちゃった。


本当に、謎の多い人だ…。