「樋口さんじゃね?」


洋平君の言葉に、身体がビリッと震える。


私は目を凝らして、その女の人を見つめた。


ストレートの綺麗な髪。


白く細い脚。


私は右手で口を押さえた。


あれは…。


間違いない。


薫さんだ。


こんなところに出入りするなんて、ちょっとビックリだけど。


でも考えてみたら、今は瀬名君とは別れてるわけだし、恋人がいたって不思議じゃないよね。


あんなに美人なんだもの。


自動ドアが開いて、二人は建物の中に入って行ってしまった。


電柱の影から出る洋平君。


私も続いて通りに出た。


「あービックリした。

薫さん、今日仕事お休みなのかな」


「いや、休みじゃない。

外回りの途中なんだろう」


うっ。


外回りの途中でこんなところに?


「薫さんの新しい彼氏さんなんだね」


スーツを着ていて、年上の男性っぽかったな。


「それはそうなんだろうけど。

ちょっと心穏やかじゃないな」


洋平君の顔がクシャリと歪む。


「どういう意味?」


そう問いかけると、洋平君がオレンジ色の髪を揺らしながら振り返った。


「相手の男、左手の薬指に指輪してた」


「えっ?」


それって…!