「洋平君。私ね、6月に薫さんに偶然会ったの」


「えっ?樋口さんに」


「うん」


「何か聞いたのか?」


「聞いた。事務所立ち上げに関わってるんですか?って」


「そしたら、樋口さんは何て言ってた?」


私は、洋平君に聞こえない程度の小さなため息をついた。


「当たり前のように、そうよって言ってた」


あの日の薫さんの笑顔が脳裏に浮かんで、チクッと胸が痛んだ。


「え?マジ?」


私はこくり頷いた。


「以前から事務所の手伝いはしてたんだって。

でも正式入社は去年の夏だって言ってた」


私がそう言うと、洋平君は黙り込んでしまった。


「嘘はついてなかったみたい」


私の早とちりだったんだよね…。