この日の撮影は無事終了し、私はフェリーの時間もあるので、イチャさんと帰ることになった。


蒼甫君が私に近づいて来る。


「た、竹内さん」


スタッフさん達もいるので、よそよそしい蒼甫君。


「帰るね」


「うん…」


「メールするね」


「うん。俺も電話する…」


蒼甫君が泣きそうな目をする。


「今日は本当にありがとう。
すげー嬉しかった。
撮影終了まで、なんとか頑張る」


手を繋ぎたい。


触れたい。


さっき抱き合ったばかりなのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。


「優月ちゃん、そろそろ行かないとフェリーに乗り遅れちゃうわ」


イチャさんの呼ぶ声がする。


「蒼甫君…。頑張って」


手を繋ぎたい衝動を必死にこらえる。


それは蒼甫君も同じようだ。


「あぁ…」


しばらく見つめ合った後、私はイチャさんの方を向いて歩き始めた。


また、会えるんだから……。


そう自分に何度も言い聞かせて、撮影現場を後にした。