午後から蒼甫君は撮影に入った。


私はイチャさんのいるところへと向かった。


イチャさんの顔を見るのが少し恥ずかしい。


「蒼甫、どうだった?」


「午後から頑張るって言ってました」


「そう…」


不安そうな顔のイチャさん。


しばらくすると、蒼甫君のシーンの撮影が始まった。


砂浜で主役の男の子と言い争うシーン。


蒼甫君は長いセリフを一度も噛まずに、流暢に話した。


昨日はここで何度も詰まっていたと聞いたけど、そんなの微塵も感じられない。


表情も真剣ですごくいい。


圧倒されてしまう。


実際、主役の男の子が本気で戸惑っているのがわかる。


「はい、カーット!OKです。

チェックしまーす」


すごい。


多分、これ一発OKだ。


「ちょっと優月ちゃん。アナタ、蒼甫にどんな魔法かけたのー?」


「えっ。いやあの。別に何も」


「すごいわー。ありがとねー。優月ちゃーん」


イチャさんにガシッと抱きつかれてしまう。


ふぅ。


どうやって励ましたかなんて、言えるわけないよ…。