「優月」


『ん?』


「会いたい」


『えっ?』


「会いたいよ」


『蒼甫君、どうしたの?』


俺はさっきの出来事を思い出していた。


中谷さんに触れられた唇を、さっと手の甲で拭う。


「なんもねーけど……。

声聞いてたら、会いたくなった」


あーなんか。


やべぇ。


戦意喪失したかも。


『私も会いたいな』


「ほんと?」


『会いたくてたまらないよ』


俺も…会いたくてたまらない。


『蒼甫君の電話から、スズムシの声が聞こえる』


「え?あぁ、今ベランダにいるから」


『蒼甫君。もう一度月を見て』


俺は空を見上げて、真ん丸い月を見た。


幻想的で、本当に綺麗な月夜だ。


「うん、見たよ」


『私も同じように見てるから。蒼甫君と同じ月』


同じ月?


「そうか。じゃあ、月を通して目が合ったかな?」


そう言うと、優月がクスリと笑った。


『あと半月だから』


「半月も、だろ?」


『あ、なんかなつかしい。そのセリフ』


「あ、ホントだ。一年前に同じこと言った。

あ、そうか。俺らもう付き合って一年になるんだな」


『そうだね。早いね』


ホント早いよな。