「蒼甫がこんな状態じゃ、今日は新しい仕事の話なんて出来そうにないわね」


イチャさんが深いため息をついている。


新しい仕事?


それって、なんだろう…。


「蒼甫。聞いておいた方がいいんじゃないのか?」


瀬名君の声が聞こえていないのか、蒼甫君は頬杖をついて窓の方を見ている。


「蒼甫…。また後日にする?」


イチャさんがそう言うと、蒼甫君がイチャさんの顔をせつなそうに見た。


「イチャさん、ごめん。

ちょっとだけ、優月と二人きりにして。

悪い、瀬名も…。

その後、ちゃんと話を聞くから。

少しだけ、頼む…」


苦しそうに言う蒼甫君に、イチャさんが頷いた。


「裕樹君、近くのカフェに行きましょう。

何かご馳走するわ」


「はい…」


そう言って、二人は事務所から出て行った。


シンとする事務所内。


守屋さんの椅子に座っている蒼甫君が、私をじっと見つめている。


「優月、こっち来て…」


ずっとパーティションのそばにいた私は、ゆっくり蒼甫君のそばへと歩いた。