「瀬名君」


「優月、走れっ」


髪に肌にまとわりつく湿った風をくぐりながら、必死に走る。


瀬名君の吐く息と、私の吐く息。


瀬名君の靴音と、私の靴音。


それらが混じり合う音を聞きながら、私は瀬名君の背中を見つめ続けた。


いつもの駅の構内に入ると、瀬名君がゆっくり足を止める。


掴んだ手をそっと離すと、瀬名君は私を振り返った。


息を切らした瀬名君が、私の顔を真っ直ぐに見つめている。


「優月、大丈夫?」


「…うん」


「何もされてない?」


「大丈夫だよ」


そう言うと、瀬名君はホッとため息をついた。


「これから帰るの?」


「ううん。バイトなの」


「じゃあ、バイト先まで送るよ」


「えっ、でも」


「バカ。今はそんな遠慮してる場合じゃないぞ」


眉間にシワを寄せる瀬名君。


「……わかった」


私は、瀬名君と一緒に電車に乗り込んだ。