「あの。イチャさんはどうして、この仕事を選んだんですか?」


「えっ?あたし?」


私はコクンと頷いた。


「そうねぇ。うーん。正直言うとよくわからないわ」


「えっ?」


「気がついたらこんなことになってた、としか言えない」


「そうなんですか?」


「もちろん昔は、あたしも夢があったの。

あたし、歌うことがすごく好きでね。

レコード会社に片っ端からデモテープ送ったこともあったし、オーディションも沢山受けたのよ。

でもね、全然ダメだったの」


知らなかった。


イチャさんって、歌手志望だったんだ。


「あたしこんなだからさ、ずっとバーで仕事してたのね。

まぁよくあるゲイバーなんだけど。

カウンターでお酒作りながら、お客さんと話す毎日だったわ」


イチャさんって、バーで仕事してたんだ。


確かに違和感はないけど。


「その仕事自体、別に嫌いじゃなかったのよ。人と話すのは苦じゃないから、お客さんのグチ聞いたり、相談相手になるのも結構楽しかったの。

だけどね、漠然とあたしこのままでいいのかなって思ってて。

そんな時よ。守屋と出会ったのは」


「守屋さん?」


「ウチのお店にお客として来たの」