その日、私はバイトだったので事務所へ行き、蒼甫君は撮影のためスタジオへ行った。


「優月ちゃん。春から受験生になるけど、バイトどうする?」


書類を整理していると、イチャさんがふいにそんなことを言い出した。


「あの、これからも続けさせてもらいたいんです。いいですか?」


私の質問に、目をぱちくりさせるイチャさん。


「あたしは構わないんだけど、受験勉強は大丈夫なの?」


……受験勉強。


その言葉に、胸がキリリと痛んだ。


「私、大学へは進学しないんです」


「え?どうして?」


私は無意識に震える手をぎゅっと握り締めた。


「……父の会社が、倒産して」


イチャさんが驚いた顔をして、私をじっと見つめている。


「そう。そうだったの。優月ちゃん、つらかったわね」


泣きそうな顔のイチャさん。


その顔に、私も泣きそうになる。


「どうかここに置いてください。私、頑張りますから」


そう言うと、イチャさんは優しく微笑んだ。


「もちろんよ。ずっと居てもいいんだからね」


「イチャさん……」


イチャさんは、本当に心あたたかい人。


いつも私を優しく包み込んでくれる。


「ねぇ。青雲へ通ってるってことは、もともとは大学を目指してたんでしょう?
だとしたら、本当につらいわね」


イチャさんに言われて、ハッとする。


漠然とあの高校に憧れて入学したけど。


その先の事は、何も考えていなかった。