ゆっくり、ゆっくり近づいて行く。


そして、蒼甫君の後ろに立った。


第一声を何にしたらいいのか。


どんな言葉をかけたらいいんだろう。


そう思っていたら、蒼甫君が肩の上から私の手をそっととった。


「ごめん、優月」


大きな細長い手が、私の手を力強く握る。


「俺、優月のこととなると、ほんとダメだわ」


そう言って、鼻でフフッと笑う蒼甫君。


「もし、俺が瀬名の立場だったら…。

今の状況ってつらいよな。

せめて、優月と友達でいたいって思うのは当然だよ」


「蒼甫君…」


「それなのに俺…、ダメとか言って。

なんか情けねぇの」


その時、ポタンと私の頬に雫が落ちて来た。


ぽつり、ぽつりと、コンクリートに水玉模様が出来ていく。


その数が少しずつ増えて、コンクリートを次第に黒く塗り替えていった。


「蒼甫君。雨だよ。行こう」


そう言ってみるけれど、蒼甫君は振り返らない。


でも、繋いだ手は離さない。


「優月。

1年の時、クラスのみんなでカラオケに行ったの覚えてる?」


「……うん」


覚えてる。


あの時、二人に初めて出会ったから。


「俺、優月とさっちゃんに話しかけただろ?

あれ、実はさ…。



瀬名が声かけようって言ったんだ」


「え…?」