「瀬名君。ひとつだけ言わせて…」


「ん?」


「もしあの時、蒼甫君が去っていて、瀬名君がそばにいてくれてたら」


私は真っ直ぐに瀬名君を見つめる。


黒く澄んだ、美しい瞳を…。


「私は瀬名君の手をとったと思う」


瀬名君がふっと笑う。


「そっか。

サンキュ」


そう。


私はどちらにしても。


その時差しのべられた手をとっていただろう。


「瀬名君。仕事、無理だけはしないで」


「うん。わかってる」


そう言うと、瀬名君は綺麗に笑った。


本当に綺麗な顔で。


私は今出来る限りの一番の笑顔をして、その場を立ち去った。