しばらくすると、瀬名君は小さなため息をついて、ドアを開けて屋上から姿を消した。


相変わらず冷たい風が、私達の間をすり抜けている。


蒼甫君は、まだ私を抱きしめたままだ。


「そ、蒼甫君…?」


黙ったままの蒼甫君。


抱きしめる腕が、痛いほど強い。


「優月。今の聞いてたよね?」


「うん…」


「どう思った?」


「ど、どうって…」


「瀬名と薫さん、別れたみたいなんだ」


「うん…。そうみたいだね…」


そう答えると、蒼甫君がさらに腕に力を入れた。


「揺れないで…」


「えっ?」


「優月、揺れないで…」


ビックリして蒼甫君を見上げた。


蒼甫君の少し茶色の瞳が、ゆらゆら揺らいでいる。


なんだか震えた子猫みたいだ。


「大丈夫だよ。揺れたりなんてしない。

私が好きなのは、蒼甫君だよ」


私は真剣に言った。


「うん…」


そう言うと蒼甫君は、目を細めて少し笑った。


蒼甫君が腰を少し曲げて、首を傾ける。


綺麗な顔が徐々に私に近づいて来る。


蒼甫君が目を閉じた直後に、私もそっと目を閉じた。


ひんやり冷たいコンクリートを背に、私と蒼甫君は優しいキスを交わした。