私と蒼甫君は、二人に挨拶をして事務所を後にした。


外はもう真っ暗で、かなり冷え込んでいた。


「蒼甫君。好感触って言われてたけど」


「うん…。

俺さ、今回も棒読みでいってやろうと思ってたんだよ。

そしたら、横にいた洋平にマジ蹴りされてさ」


うっ。ちょっと今、想像しちゃった。


「マジメにやらねーと、ぶっ殺すって言われて。

しょうがなく真剣にセリフ読んだんだよ」


洋平君らしいなあ。


不戦勝はイヤだって言ってたもんね。


「あー、洋平さ。髪染め直してたよ」


「えっ?」


「なんかオレンジっぽくなってたな。
全部色が抜けてるから、ダークには染まらないんだとさ」


「シルバーの髪じゃない洋平君って、なんだか想像つかないな」


「俺も最初、誰だかわかんなかった。
でもすげぇよな。
あんなに似合ってたシルバーの髪、オーディションのためにあっさり染めるんだもんなあ」


ホントそうだね。


前に瀬名君が言ってたっけ。


洋平君は、真剣にこの仕事をやってるって。


「蒼甫君が採用されたらどうしよう…」


「どうしよっか…」


なんだか私達、この状況を少し甘く見ていたかもしれない。


私の不安は募るばかりだった。