「優月、帰ろう」


放課後、いつものように私の席の前に来る蒼甫君。


「私、今日バイトなんだ」


「じゃあ駅まで一緒に行こうか」


「うん」


二人で教室のドアの前まで歩くと、蒼甫君がガラッとドアを開けた。


「あ」


蒼甫君の声に顔を上げると、ドアの向こうに瀬名君が立っているのが見えた。


「よう、瀬名」


「今から帰り?」


「うん」


「じゃあな」


「おう」


瀬名君と視線がぶつかる。


でも、私はすぐに逸らしてしまった。


あれ以来…。


あの日のキス以来、私は瀬名君に近づけなかった。


薫さんと別れた瀬名君と、どう接していいかわからなかった。


最近、疲れた顔をしている瀬名君が心配だったけど。


どうにかして彼を救いたいけど。


気軽に話しかけるなんて、出来なかった。