「うーん」


洋平君の顔が曇る。


「その話、全部変だな」


「えっ?」


変って、どういうことなんだろう?


「確かに樋口さんは、大学を中退してる。

でも、そのタイミングじゃないはずだ」


「どうして?」


「だって俺が事務所に入った時、彼女は毎日のように事務所に来てた。

大学生がいくら時間に融通が利くって言っても、そう毎日会社に来るか?」


大学生の事なんて、私にはさっぱりわからないけれど。


「まぁもし仮に、その夏のタイミングで大学を辞めて、田舎に帰ろうとしてたのが本当だったとして。

就職先を探した結果が、今の事務所って言うのはおかしい。

だって、もうすでにその事務所に入ってたんだから」


薫さんの考えていることが全然わからなくて、なんだか喉の奥が熱い。


「なあ。裕樹がモデルを始めたのはどうしてなんだ?

樋口さんのコネなのか?」


「えっ、違うよ。薫さんに頼まれたからだよ」


「頼まれた?」


「うん。会社の業績があんまり良くないから、主力になるモデルが欲しいって、鈴木社長に言われたらしくて。

それで薫さんが、瀬名君に頭を下げて頼んで来たって」


洋平君の切れ長の目が、ぐっと釣りあがる。


「じゃあ、裕樹は自分が望んで事務所に入ったわけじゃないっていうのか?」


驚きを隠せない様子の洋平君。


「そうだよ…。薫さんのために、やってるんだよ…」


私はそう言って、机に視線を落とした。