お父さんはカメラのレンズを磨き始めた。


「お父さん、そのカメラなつかしい」


子供の頃、よくこのカメラで私とヒロトを撮ってくれてた。


「フィルムで撮るタイプなんでしょう?」


「うん。今はデジカメが主流だけど、フィルムはフィルムの良さがあるよ」


「でも、デジカメみたいに気軽には撮れないよね」


フィルム代や現像代だってかかるし、現像してみて失敗だったら、撮り直し出来ないよね?


「だからこそ、一枚一枚に真剣になるんだ。

対象物としっかり向き合って、今この瞬間だって思ったところでシャッターを押す。

まさに一期一会だ。

なかなか奥が深いよ」


「へぇ…」


「最近、優月はよくカメラで色々撮ったりしてるよね」


「うん。夏休みに海で撮った時から、ちょっとハマってる」


蒼甫君のおじさんの家の前の海を撮ってから、私は時々カメラを持って散歩していた。


「良かったら、このカメラ、優月にあげるよ」


「えっ?本当にいいの?」


「古いけど、結構性能いいんだよ」


お父さんがずっと大切にしていたカメラ。


「ありがとう。大切にするね」