駅に降りると、私と蒼甫君は事務所までの道を歩き始めた。


電車に乗っている間は離されていた手が、また繋がれる。


蒼甫君って、彼女が出来るとベタベタしたいタイプなのかな?


友達だった頃とは明らかに違う対応に、なんだか戸惑ってしまう。


気がつけば私達は、事務所の下に着いていた。


「ここだよ。この2階が事務所なの」


『じゃあここで』と言おうとしたのに、蒼甫君はあっという間に階段をかけ上がってしまった。


「えぇーっ?」


慌てて蒼甫君を追いかける。


私が事務所の扉の前に到着すると、蒼甫君は2階をうろうろしていた。


「蒼甫君?」


どうしたんだろうと戸惑っていると、蒼甫君が給湯室へと私の手を引いた。


そして、廊下から少し死角になる柱の影に私を立たせた。


「な…に?」


壁に手をついて、ニッコリ笑う蒼甫君。


綺麗な顔が近づいて来る。


「……っ」


触れるだけの優しいキス。


えっ、えぇーっ?


も、もしかしてキスする場所を探してたの?


もうっ。蒼甫君てば。


私が真っ赤になっていると、蒼甫君が私の頭をぽんぽんと撫でた。


「優月、バイト頑張れよ」


そう言って優しく笑った。


給湯室から出る蒼甫君の後に付いて、私も廊下に出る。


じゃあまた明日ねと、手を振った時だった。


ガチャッと事務所のドアが開いた。