バイト最終日は、なんだかいつもと違う気持ちだった。


バイト中、何度も蒼甫君と目が合って。


そのたびに蒼甫君が優しく笑ってくれるから、ちょっと恥ずかしかった。


付き合うってこんなにくすぐったい事なんだね。


私達は夏休みが始まってからお盆休み最終日まで、雨の日以外はぶっ通しで働いた。


最後にやっちゃんからもらったバイト代は、想像以上に多くてびっくりだった。


やっちゃんと、ヘルプの女性二人にお礼と挨拶をして、私と蒼甫君は海の家をあとにした。


蒼甫君は今からサーフィンに行くので、バス停でお別れだ。


私達は並んでバスを待つ。


なんだか会話が少ない。


私が下を向いていると、蒼甫君が私の手をそっと握った。


蒼甫君は、特に何も言わない。


言わないけど、指先から痛いほど気持ちが伝わって来る。


「あ…」


バスが来た。


これで、しばらくお別れだね。


蒼甫君が繋ぐ指に力を入れる。


「優月…」


何か言いたそうなのに、何も言わない蒼甫君。


バスのドアが開くと、蒼甫君はゆっくり手を離した。


バスに乗り込む蒼甫君の後ろ姿が、なんだか寂しそうで。


「蒼甫君っ」


私の声をかき消して、無情にもバスの扉は閉まり、走り出してしまった。


私達は姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。