次の日の朝リビングに行くと、瀬名君の姿はなかった。


みゆきさんが言うには、荷物をまとめて薫さんのペンションへ向かったのだとか。


おじさんとみゆきさんと蒼甫君にだけ挨拶をして、早朝出て行ったようだ。


私はダイニングの椅子に腰を下ろした。


「はい、コーヒー」


蒼甫君が差し出してくれる。


「ありがとう」


私はそのコーヒーをぐっと一口飲んだ。


「アイツらしいよな。アイツ、責任感が強いから…」


「うん…。そうだね」


それ以上、誰も口を開かなかった。


事情が事情なだけに、何も言えなかったんだ…。





瀬名君がいなくなっても、私達のバイトはいつも通り続いた。


やっちゃんもヘルプの女性二人も、瀬名君がいなくなったことをすごく寂しがっていた。


一人いなくなっただけなのに、お店から火が消えたように感じてしまうのは、どうしてなのだろう…。





その日の夕方、蒼甫君が海へ入ると言うので、私は蒼甫君に付いて行く事にした。


バスの中で、私と蒼甫君は無言だった。


なんだかどうしても、気が重かった。


蒼甫君が海に入っている間、私は一人砂浜に座って、海をボーッと眺めていた。


以前だったら、私の隣に瀬名君がいてくれたのに…。


そう思うと寂しくて、波乗りをしているサーファーさん達を眺めながら、私は静かに泣いた。