「私、大学を辞めたの。

あなたと別れてから、なんだか何も目標がなくなってしまって。

だからもう田舎に帰ろうと思って。

でもその前に思い出作りにって、友達とここに泊まりに来たの。

ここで裕樹に会えるなんて、運命としか思えなくて。

私、ここに明日までいるから、もしやり直せるなら会いに来て。

来なかったら、あきらめて田舎に帰るから」


そう言うと薫さんは席を立ち、ペンションの地図が書かれた紙を机に置いて、玄関を出て行ってしまった。


瀬名君はただ一点を見つめている。


瀬名君の白い肌が、さらに白さを増して。


なんだか、消えてしまいそうだった。





しばらく沈黙が続いた後、部屋からみゆきさんが出て来た。


「お客様、お帰りになったのね」


「あ…。すみませんでした」


瀬名君がソファーから立ち上がる。


「いいのよ。気にしないで」


にっこり笑うみゆきさん。


「あの、俺。ちょっと外の空気吸って来ていいですか?」


「ええ。もちろん」


「優月、付き合ってくれる?」


突然瀬名君に振り返られ、ドクンと心臓が跳ね上がる。


「うん…」


コトリとも音を立てずに、瀬名君は玄関へと向かった。


私もその後を追って、玄関を出た。