その日のバイトが終わった後、私と蒼甫君は瀬名君に昼間の女性のことを聞いてみることにした。


お客さんの居なくなったテーブル席に、三人で腰かける。


瀬名君は何も言いたくなさそうだったけど、仕事に支障があると困ると蒼甫君に促されて、その重い口を開いた。


彼女は樋口薫(ひぐち かおる)といって、瀬名君の元カノだった。


当時、瀬名君は中学三年生。


薫さんは大学一年生だったらしい。


その頃薫さんは、瀬名君の家で家庭教師のアルバイトをしていた。


教師と教え子の関係だったけれど、何度か会ううちに、自然に惹かれあっていったのだそう。


しばらく付き合っていたのだけど、その年のクリスマスの前に、彼女は何も言わずに姿を消してしまった。


携帯電話も通じないし、アパートはすでに引き払われていて、中学生だった瀬名君にはそれ以上彼女を探すことは出来なかった。


それに薫さんは、4歳も年下の中学生の瀬名君を、大学の友達に紹介してくれたことなど一度もなかった。


だから薫さんの知り合いを尋ねることも出来なくて、そのまま終わってしまったのだそうだ。