「おい、蒼甫」


一人でトイレに行こうとしていた蒼甫に声をかける。


「ちょっと顔貸せ」


「俺、トイレにー」


「……。そのあとでいいからっ」


蒼甫がトイレから出るのを待って、7組の廊下の横の扉を開け、蒼甫と二人で非常階段に座った。


下から風が吹き上げてきて、俺も蒼甫も髪がボサボサだ。


「お前さ、何考えてんの?」


「んー?何が?」


「何って、優月のことだよ。なに朝からアイツに付きまとってんだよ?」


「付きまとうって、人聞き悪いなあ」


蒼甫は手すりに両腕をかけて、下の景色を眺めている。


整った横顔に妙に感心しつつ、しばらく蒼甫を見ていた。


「俺、昨日見ちゃったんだよね。保健室で」


視線をそのままに蒼甫が話している。


「見たって何を?」


焦らさずに早く言えっての。


「渋谷がさ、ベッドに横になってる優月にキスしようとしてるとこ」


ちょっ。


マジかよ…。


「でも優月さ、拒んだんだよ。渋谷のこと」


「えっ?」


それって…。


「もし本当に、優月があんな格好で渋谷に迫ったんだとしたら、渋谷のキスを拒んだりするか?」


「……」


確かに。


「しかも渋谷、顔真っ赤にして優月にごめんって言って、慌てて保健室を出てったんだよ」


「はぁ?」


「アイツら、そんなに濃厚な関係じゃないと思う。それに…」


「それに?」