「ちょっ、ちょっと蒼甫君」


中庭の自動販売機の前で、蒼甫君は乳酸飲料のボタンを押している。


「ん~?なにー?」


ストローを差してチューッとジュースを飲む姿は、まるで子供みたいだ。


「ああいうのは困るよ。渋谷君に申し訳ないし」


私は思ったことを正直に言った。


「あー、あれねー」


蒼甫君はそう言うと、横にあるベンチに腰掛けた。


長い脚をほおリ投げて、蒼甫君はチューッとジュースを吸い込む。


2月の冷たい風が、私達の間を吹き抜けていく。


私は一瞬ブルッと震えて、蒼甫君の言葉を待った。


「俺ね、遠慮しないことにしたから」


は?


蒼甫君、それはどういう…。


「優月だって昨日、俺のそばにいたいって言っただろ?」


うっ。言った。


確かに言いました。


言ったけど…。


「だから俺、そばにいるよ。優月のそばに」


そう言うと蒼甫君は、ジュースの空箱をきゅっと握って、ゴミ箱に投げ入れた。


そして私に近づくと、私のほっぺたをキュッとつまんで優しく微笑んだ。


もうっ。


いちいちドキドキさせないで欲しい。