休憩時間になって、トイレに行こうと席を立つと、ドアの近くに渋谷君が立っていた。


「おはよう、渋谷君」


「おはよう。気分はどう?」


「もう大丈夫だよ」


「そっか。ちょっと話さない?」


「うん。いいよ」


そう言って二人で廊下に出ようとした時だった。


「ゆーづきっ。喉乾いたー。自販機行くから付いて来て」


背後から急に出てきた蒼甫君は、私の返事を待たずに、私の腕を引っ張って歩き出してしまった。


「え?そ、蒼甫君?」


「竹内っ」


渋谷君がビックリした顔をして、慌てて追いかけて来る。


「神崎っ。ちょっと待てよ」


そう言って渋谷君が、私の腕を引く。


右腕は蒼甫君、左腕は渋谷君に握られて、なんだかすごく恥ずかしい状態になっている。


「なんだよ、渋谷っ。離せってのー」


だだっ子みたいな口調で言う蒼甫君。


「神崎。一応俺、竹内と付き合ってんだよね。
だから、そういう態度やめてくれないか?」


いつものトーンじゃない渋谷君の声に戸惑う私。


胸がドキドキして苦しい。


「ふーん。で?」


「……っ。だからさー、俺と竹内のジャマするのやめろって言ってんだよっ」


渋谷君は私の腕をぐっと強く握っている。


すると蒼甫君が、渋谷君の首元を掴んで引っ張った。


二人の顔が、私の目の前で近づく。


「俺、遠慮しねぇから」


鋭い瞳の蒼甫君。


渋谷君も負けずに蒼甫君を睨み返している。


「ちょっ、あのっ」


あたふたする私。


周りの視線も気になるし。


「優月、行くぞ~」


そう言うと蒼甫君は、あっさり渋谷君の手を私から引き離して、私を連れて行ってしまった。