「優月」


えっ?


この声って、まさか…!


カーテンの向こうから、顔を出したのは。


「大丈夫か?」


「蒼甫君っ」


驚きのあまり、時間が止まったんじゃないかと思った。


だって、その顔は…。


間違いなく蒼甫君で…。


私、夢を見ているの?


蒼甫君は、さっきまで渋谷君が座っていた丸椅子にそっと腰掛けた。


私が身体を起こして、体勢を整えて座ろうとすると。


「ダメだよ。まだ寝てなきゃ」


あっさり蒼甫君に寝かされてしまった。


手が触れた肩に、全神経が集中する。


なんだか熱い…。


「ごめんな。俺が打った球が優月に当たったんだ」


「えっ?」


「ごめんな。痛かっただろ?」


そうだったんだ。


あれは蒼甫君の打った球だったんだ。


「男子の体育の前田センセーが、優月を保健室まで運んだんだ。

俺も一緒について行きたかったんだけど、休憩時間に来いってセンセーに言われてさ。

遅くなってごめん」


蒼甫君。


なんだかなつかしくて泣きたくなってしまう。


こんな間近で、蒼甫君を見られるなんて。


目に涙が溜まってくる。


「優月、頭痛いのか?」


ううんと、私は首を横に振った。


違うの。


ずっと、こうして蒼甫君と話がしたかったから…。