「…うちっ。竹内」


遠くで誰かが私を呼んでいる。


目を開けようとするけど、瞼が重くて開かない。


「しっかりして、竹内」


左手をしっかり握られている。


だ…れ?


ゆっくりゆっくり瞼を開ける。


真っ白な天井、クリーム色のカーテン。


そして目の前には…。


「竹内、目が覚めた?」


「渋谷君」


心配そうに私の顔をのぞき込んでいるのは、渋谷君だった。


頭の下には氷まくらが敷いてあるのか、ひんやりと冷たい。


「甲斐から教えてもらったんだ。

竹内の頭にソフトボールが当たって倒れたって」


あの時、飛んで来たのはソフトボールだったんだ…。


「頭を強く打って倒れたっていうよりも、貧血じゃないかって保健の先生は言ってたよ」


貧血…?


「最近、あんまり寝てなかったからかな」


蒼甫君と瀬名君と話せなくなって以来、私は毎日あまり眠れていなかった。


「あんまり無理するなよ」


渋谷君が眉毛をくっと曲げて、せつなそうに言う。


「ごめんなさい。心配かけて」


私がそう言うと、渋谷君は優しく笑った。


私の左手を握ったまま、真っ直ぐ見つめる渋谷君。


ちょっと、顔が近くて恥ずかしい。


渋谷君は空いた方の手で、私の頭を優しく撫でる。


その手が次第に、私の頬へと移動していく。


しばらくすると…。


渋谷君の顔が、そっと私に近づいて来た。