「俺は、噂になってもいい」


「え…?」


「その噂、本物にしない?」


冷たい北風が足元をすり抜けていくなか、


私の顔を真っ直ぐに見つめる渋谷君。


私はなんだか身動きが取れずに、ただじっと彼を見ていた。


「俺ね。竹内が好きなんだ」


ドクンと、心臓が大きく跳ね上がる。


うそ…。


渋谷君が、私のこと…?


「ずっと前から、好きだった」


氷のように冷たい風が、火照る私の頬を撫でていく。


「前にも付き合うフリしようとか言ったけど、実はあれ、本気だったんだ」


渋谷君はゆっくり私に近寄って来て、


そして、私の左肩に右手をそっと置いた。


「俺と付き合って欲しい」


どうしよう。


心臓の鼓動がやたらドクドクとうるさくて、うざったい。


「あの…」


「返事はまだいいから。気長に考えて」


そう言うと渋谷君は、私の肩から手を降ろして、ゆっくり歩き始めた。


渋谷君。


ずっと思っていてくれたんだ。


だからいつも私を気にかけて、心配してくれて、守ってくれていたんだね。


思えば蒼甫君も瀬名君も、いつも私を気にかけてくれていた。


いつも心配してくれて、笑いかけてくれて、ドキドキさせられて…。


でも、今はもう違う。