「うん。またあとでね。バイバイ」


教室のドアからさっちゃんの声がする。


誰かに手を振っているようだ。


「さっちゃん。今の誰?」


教室に入って来たさっちゃんに蒼甫君が尋ねると、さっちゃんの耳がみるみる赤くなっていった。


「えっと……」


さっちゃんが言いにくそうに下を向いて、『優月ちゃんから言って』と合図するので、私は二人に小声でそっと伝えた。






「えーーーっ!彼氏ーーー???」


教室中に二人の声が響く。


「ちょ、ちょっと。そんなに大きな声出さないでっ」


さっちゃんが顔を真っ赤にしてうろたえている。


「なんで教えてくれなかったんだよー」


「昨日のことだから、二人には今日話すつもりだったの」


そう。


さっちゃんには昨日、彼氏ができた。


私は電話で聞いていたから知っていたけど。


「いつの間にー。さっきのって5組のヤツだろ?」


「うん。斉藤君っていうの」


両手で頬を押さえるさっちゃん。


「私、文化祭実行委員やってたでしょ?その時に知り合ってね」


斉藤君は、その時からずっとさっちゃんが気になっていたらしい。


文化祭が終わり、さっちゃんとの接点がなくなって不安になった斉藤君が、昨日ついに打ち明けたというわけだ。


「私もいい人だなって思ってたしね。ビックリしたけど、嬉しかったから……」