「だめよ、ウキタさん。わたし湿っぽいのは嫌いなの」


お神輿から降りたわたしを待っていたのは、あの日から焦がれた彼女でした。



「関ヶ原合戦tourはどうだった?」

「もっと、じっくり回りたかったです」


わたしは石段の一番上に座って、下の世界を見下ろしました。

「眠いです。地球が青かろうが、目の前にビールがあろうが、夜勤明けはとにかく眠りたいのです」


彼女は「わかるわかる」と笑います。

「このまま天国で眠りたいです」




ふふ、と彼女が微笑みました。

「だめよ、まだ夜勤は明けていないもの」

お山のテッペン。
天国の入り口は荘厳な門があると思っていました。

しかし、そこにあるのは両開きの自動ドアでした。

手を触れることなく、しかし誰もが通れるものではなく、フットペダルでキックすると開く仕組みのドア。

それはERの処置室のドアでした。


「死はどこにあるの?」

彼女はドアの前に立ちました。

「死にたくて死のうとする人に言ってやって」

フットペダルを軽くキックします。

「その命を救うために、自分の命をす
り減らした美人ナースがいたんだって。」

ドアが開くと、輝く世界が現れました。

「アレが小さいと尿道確保が難しいから、エロいことでも考えて大きくしてちょうだいって。」

彼女は妖艶に微笑みました。

「未来が見えなくて不安でも、エロいことを考えてたら少しは元気になるんじゃない?って。」


「・・・そんな不謹慎なこと言えませんよ。所詮ナースは黒子ですから」

「それもそうね」


・・・最後に聞いたのは、焦がれたあの声。



「死はどこにあるの? 一生問い続けて、死ぬまで看護師で、い・・・・」


言葉も姿も、吸い込まれながらドアは閉まり、


すぐにフットペダルをキックして、開いた世界は、職場であるERでした。



午前0時、少し前。

近くに救急車の入る音が聞こえています。



「ああああ、まさかの0時またぎ~」

わたしは不織布のマスクを装着し、滅菌手袋をはめました。







【竹林パラドックス】