緩い登り坂が終わり、神社に続く石段まで来たところで天狗が地面を見ながら言いました。


「わしはここから先には行けないのじゃ」


わたしはなんとなく、わかっていました。

このお山が、ここにある意味。
不浄のもののけが入れない空気。

蹴散らされ踏みつけられた彼岸花の、それでも泣き声ひとつ発しない強い意志。


階段はどこまでも続くようでした。


わたしは一人、石段を踏み締めながら昇ります。
提灯の中の蝋燭が、ジジッと芯を焦がす音さえ鮮明に聞こえます。


此の坂を、甲冑に身を包んで昇る心持ちとはいかばかりか。
想いを馳せ、絶望に飲み込まれる刹那、下の方から威勢のいい声が聴こえてきました。



オイッショー オイッショー!
オイッショー オイッショー!



くるくると赤色灯を煌めかせ上下する救急お神輿をかつぐ男衆でした。


あれよあれよとお神輿に載せられたわたしは、ただただ呆然としていました。


お神輿を先頭で担ぐ男は救急隊員のヘルメットを被っています。
ピーポー ピーポーと横笛を吹く男の法被には救急患者搬送中、と刺繍されています。


階段を上がる男衆の熱気が霧になり、空へ登り詰め、空に文字が浮かび上がりました。


【welcome heaven】

・・・・・・。

「天国への階段はもっと厳かに上りたかったです・・・」

わたしはぐったりとしながら呟きました。