――― あなたは、死ぬまで戦っていました。
すでに両膝を地につき、息が上がっている武士の肩に、わたしは手を置きました。
「あなたの殿様は齢80過ぎまで長生きされます。大丈夫」
・・・だからもう、他人のためでなく、自分のために生きてください。
「あなたの分も、わたしが頂上まで頑張りますから」
・・・人は無力ではありません。
微力ではありますが、無力と微力は違います。
武士の体温を雨が奪います。
わたしはビニール傘を武士に立て掛け、ストールを首に巻いてあげました。
「傍についていたいのですが、わたしは先に行かなくてはなりません」
わたしは武士を振り返らず、再び歩き出しました。
「あの男はいつからあそこにいるんじゃろうな」
天狗はわたしに着いてくるようです。
「いつまであそこで、死にきれずにいるつもりじゃろうか」
「気が済むまで、いてくださってかまいませんよ。あの武士も、天狗さんも 。
ここは、そういうお山でしょう」