武士はこちらを血走った目で見上げました。


「大丈夫ですか?」

わたしは、血まみれの武士に駆け寄り、傘を差し出しました。


ごく少数の人は、自分より弱い可能性の全くない人にも優しくできるのです。


「殿に・・・殿のお役に立つまでは死ねぬ」

武士は頭に刺さった矢を抜こうとしました。

「待ってください! 貫通しているものは抜いてはいけません。抜いたとたんに大量出血します」

武士は、矢に手をかけたまま、納得いかない顔をしています。


「それに・・・、矢が刺さってた方が男らしくてオシャレです!」


そうか、と頷き武士は矢から手を離しました。


「殿はいずこにおるのじゃ」

「天満神社におろうよ」

天狗が答えました。

「今頃ヌシを心配しておろう」

武士は、方膝をつき肩が上下動していました。
血走った目は山の頂を見やり、鼻血が留まらず、

・・・死の臭いがしました。



死の淵から命を掬い上げる毎日の中で、わたしは前に進むことを覚えていました。

全力を尽くして処置にあたって。
総力を上げて看病して。

それでもこぼれ落ちる命のなんと多いことかと、自分の力の無さにがっかりして。


それでも、続けられるのは・・・。