『大丈夫だよ。難しい仕事だったら、バイトには頼めないだろうし。個展の受付だと、お客さんに名前書いてもらったり、パンフレット渡したり、その程度だよ』

いつもと変わらないマモルの穏やかな声を聞きながら、「そっかぁ」と数回頷いて呟いた。

「マモル、詳しいね。個展とかよく行くの?」
『まぁ…昔はね。友達の個展とか。最近は行ってないけどね』
「あ、そっか!マモルも学芸大学だっけ」

そういえばそうだった。ジャンルは違うけど、マモルも学芸大学だ。あんまりそういう才能がないあたしにとって、学芸大学なんて未知の世界だ。

「マモルは音楽だよね。ねぇ、いい加減何やってるのか教えてよ」
『あれ、言ってなかったっけ』
「ほら、またはぐらかす~!」

『冗談冗談』と笑いながら言うマモル。さすがに今日は直球で聞いたのではぐらかすことも出来ず、観念した様に呟いた。

『…バイオリンだよ』
「バイオリン?」
『そ、バイオリン』

驚いた。音楽って言ったら、歌とかピアノとかリコーダーとか、その程度しか触れてこなかったあたし。

バイオリンなんて、未知の世界のど真ん中だ。