「帰ってくると思ってたよ」

いきなり佐倉さんが口を開き、あたしは文字通り飛び上がった。

「さ、佐倉さん!?起きてて…」
「さすがにドアが開いて寝てる程、無防備じゃないからね」

んっと起き上がり軽く伸びをしてから、「車で寝たのなんか久しぶりだ」と呟く。

あたしは少しの気まずさから、顔を上げれずにいた。

ふいに佐倉さんの手が伸びる。それは、半分乾いたあたしの髪に触れた。

「…やだな、ボサボサ。あんま見ないで」
「濡れたの?」
「…少しだけ」

本当は結構濡れたけど、何となくそう言った。2、3度あたしの髪を撫でて、そっと抱き締める。

「佐倉さ…」
「冷たいな。風邪引くよ」
「…あっためてくれるの?」
「…いいよ」

泣きそうになったのを必死に堪えて、あたしは佐倉さんの胸に顔を埋める。

こうしてまた、同じ過ちを繰り返すんだ。きっと傷付く。わかってる。でも。

「これ、返すなよな」

佐倉さんは耳許であのシルバーのブレスレットを揺らした。チャリッと音がする。

「亜弥に買ったんだ。返されても困るよ」

小さく苦笑する佐倉さん。あたしも思わず笑った。

「…うん。ありがとう」