あの日、目覚めたらもう彼はいなかった。電話の横にあったメモには、『先に帰る。支払いはすんでるから、泊まって行けばいい』。
…せめて名前くらい書いてくれたらいいのに。絶対に足をつけない。どこまでも完璧な人だ。
律儀にもあたしはそのメモをカバンにしまい、もう一度布団に潜った。
柔らかいベッド。あたしの全てを包み込む。
ふいに泣きそうになって、あたしは思わず枕に顔を埋めた。
柔らかいベッドなんかじゃなくてもいい。どこでもいい。あたしは彼に、抱きしめられたかった。
今も本当は、隣にいて欲しい。目が覚めたら隣にいて、目を合わせて笑って欲しい。小さく頭を撫でて、「おはよう」って囁いて欲しい。
夢でもいいからって何度も思うのに、夢ですら彼は、いつもの彼で。
それがわかるから、あたしは眠りたくなかったんだ。いつも、誰に抱かれた後でも。