呼び出し音が鳴る。鳴る度に緊張が増した。

何度か同じ無機質な音が繰り返されたかと思ったが、ふいに途切れてカチャッという音に変わった。

出た。

『…サクラ？』

昨日の声だ。

「あ、あの…」

言わなきゃ。

「あたし、あの…間違い電話で…」

いや、あたしが間違い電話なんじゃなくて…。

「昨日、電話してきましたよね？サクラさんって人に…」
『…え？』
「あれ、間違ってあたしにかけてたんです。あの、すぐに間違いって言えばよかったんですけど、あの…あたしもサクラっていうんで、混乱しちゃって…」

ホントは亜弥だけど、今はサクラで話を合わせとくべきだよね。

「だから…その、」
『あ…すみませんでした。』
「いえ、あたしより…あの、サクラさんに…」

伝わってないんじゃないですか。言いかけて、止めた。なんだか軽々しく口にできなかった。

『あ…いや、いいですよ。別に、大した用じゃないし…』

電話口の向こうで少しだけ笑った声が聞こえた。苦笑、というのだろうか。