…ことが済んだら、斉藤さんは足早にホテルを出ていった。
めんどくさいから、あたしは寝たふりをする。
ドアの閉まる音を合図に目を開けた。
静かな空間が嫌で、有線のスイッチを入れる。
ヒット曲の流れる中で、あたしはゆっくりと瞼をおろした。
…沙智さんと会った日以来、あたしは一人でいた。
学校にも行かない。遊びにも行かない。たまに着替えを取りに家に帰る程度で、家族にだって会わなかった。
もちろん、佐倉さんにも。
わからなかった。もし今佐倉さんから電話があって、いつもの調子で「会おうか」と言われれば、やっぱりあたしは行くのかもしれない。
あれだけ彼女を傷つけておいて。
敗けた、と、実感しておいて。
でも佐倉さんから連絡はなかったから、実際あたしがどういう行動に出るかはわからなかった。
もしかしたら沙智さんは、佐倉さんに話したかもしれない。
そしたらもう、佐倉さんから連絡があることはないのかもしれない。
いくらそう思っても、涙さえ出なかった。
…どうしたんだろう、あたし。
佐倉さんに対するあたしの愛は、間違ってた。
そう思うだけで、ただひたすら心がかじかんだ。