……………

「長い間引き止めちゃったね。ごめんね」
「いえ、全然大丈夫です」

レストランから出たら、意外にも少し温かかった。
季節はもう5月。当たり前か。

「今日はありがとうございました。凄く美味しかったし…色々話せて、本当によかった」
「こちらこそ。またよかったら、ご飯でも行こうね」

今度は割り勘ね、と言う宮川さんに、あたしは苦笑しながら頷いた。

「じゃ。気をつけて帰ってね」

手を振って背を見せる宮川さん。あたしも手を振りながら、その背中を見つめる。

宮川さんの中では多分、マモルは思い出になっている。
目まぐるしく動く世界の中、それは仕方ないことなのかもしれない。
でもどうしても願ってしまう。

「…宮川さん!」

いつかあの日の間違い電話が、ちゃんと"サクラ"さんの元へ届くことを。

「…"好きになってよかった"も、最高の誉め言葉だと思いますよ」

宮川さんは少し驚いて、そして少女の様に笑った。

「そうね」

…いつか届けばいい。

宮川さんの気持ちも、マモルの想いも。

すれ違ったまま終わっていい様な、そんな恋じゃないと思うから。